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福岡地方裁判所小倉支部 昭和44年(むの4)54号 決定

被疑者 美崎至

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する窃盗被疑事件につき、福岡地方裁判所小倉支部裁判官神吉正則が昭和四四年六月一七日になした勾留請求却下の裁判に対し、小倉区検察庁検察官茂信雄から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨及び理由は別紙準抗告申立書(略)記載のとおりであるからこれをここに引用する。

二、本件記録によれば、被疑者が勾留請求書引用の司法警察員事件送致書記載の罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があることが認められる。

三、そこで本件被疑者の逮捕が適法であるか否かの点につき検討する。

鉄道公安職員作成の現行犯人逮捕手続書及び被疑者の司法巡査に対する供述調書によると、本件被疑者の逮捕にあたつて鉄道公安職員が被害者を伴つて被害現場に急行したところ、被害者が被疑者を指差して「盗んだのはこの男です。」といつたので、被疑者を右現場から約一五メートル離れている小倉第一鉄道公安室小倉公安派出所に任意同行し、同所で取調べた結果、被疑者が腹巻の中から本件の盗品を出したので、被疑者を窃盗の準現行犯人として逮捕したことが認められる。

検察官は、右逮捕が時間的には本件犯行後約一二~三分後のことであり、場所的には本件犯行現場から約一五メートルしか離れていない派出所で行われたのであるから、刑事訴訟法二一二条二項の「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」に該当し、且つ被疑者が賍品たる定期券を所持していたので、同項二号の準現行犯に該当し、右逮捕手続は適法である旨主張する。しかしながら、現行犯逮捕が許されるためには、罪証が外観上明白であり、従つて、何人が見ても犯罪を行つたということがはつきりしていることが必要であり、そして準現行犯の場合においても、法の列挙するような各事由につきそれが外観上明白であることを必要とすることに変りはないものである。

右の観点からすれば、刑事訴訟法二一二条二項二号の「賍物を所持しているとき」というのは、外見上被疑者が賍物を所持していることが明白な場合を意味するのであつて、外見上被疑者が賍物を所持しているか否かは不明で、例えば被疑者がポケツトの中から賍物を取り出したことによつてはじめて賍物を所持していることが判明したような場合は、前同号に該当しないものと解するのが相当といわねばならない。

従つて、本件の如く被疑者が現場から派出所に連行され、同所で鉄道公安職員から追求された結果、腹巻の中から盗品たる定期券を取り出したような場合は、右法条に所謂「賍物を所持しているとき」に該当しないものといわねばならない。従つて、本件被疑者を現行犯人として逮捕した鉄道公安職員の措置は違法というべきである。

四、そうすると本件被疑者に対する勾留の請求は、その前提たる逮捕手続が違法であるから不適法というほかはなく、右請求を却下した原裁判は相当である。

よつて本件請求は、その理由がないからこれを棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

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